キナバル山 スペッシャルV

上の部屋の中はラバン・ラタ小屋のレストラン。一階全体がそうなっている。ビールをはじめ中華風、マレー風の料理は十数種類がメニューにある。八宝菜、チキン、ライス、デザートの杏仁豆腐を食べた。ビールは思案したあと、止めた。なぜかビールには尿酸値高くなる成分が多いらしく、持病の痛風には厳禁なのだ。それに高度障害のことを考えると、控えた方がいいのは間違いない。コーヒー、紅茶はポットごともってくるので、三杯は飲める。4リギット。ここはもう日本第二の高峰、北岳より高いのに、なんと安いこと!!  赤いジャンパーを着ている中国系の男性は、レストランのスタッフ。注文を取っている。スタッフは男女数人がいる。食材は毎日、下から強力が運び上げている。近くにヘリポートがあるのだが、もちろん人件費の方が安いのだ。この日はスウェーデン、ドイツ人が目立った。イント゜人もターバン姿でいた。私のような単独行と思われるトレッカーもそこそこいた。日本人は一組の夫婦と他に女性二人がいた。掲示板によれば、この夜、5宿泊施設の登山者は合わせて114人であった。ベッド数に見合う予約客だけなのだ。日本の山小屋のようなすし詰めはありえない。
ラバン・ラタ小屋の北側にそそりたつ岩石の峰。紫色と灰色が入り交じった暗色のうえ、いかにも骨太の岩が奇怪な形で盛り上がっており、コースの知識がない者なら、一体こんな岩壁をどうやって登っていくのか、と呆然と立ちすくむ。大障壁が立ちはだかって期待と不安をかき立てる。右の岩はいかにもウサギがしゃがんでいるように見える。とにかくラバン・ラタ小屋から上部は山の光景が見事に一変する。殺伐荒涼の大岩盤であり、日本の山に比較すべき適当がものがない。
右の写真は、いわゆるロバの耳と言われる巨大岩です。お断りしておきますが、ここから以降の写真は、山頂に達したあと、夜が明けて下山する途中に写したものです。登る途中のものではありません。なぜなら、確かに登頂の途中にある光景に違いないだが、実際には真っ暗闇だから視野に入っていない。写真の被写体になりえない。ラバン・ラタ小屋では、午前2時からオープン、朝食のサービスをする。たいがいの登山者は、それに合わせて起床、朝食。午前3時くらいまでの深夜に小屋を出発、防寒着とヘッドランブをつけて、サミットに向かうのである。登山客を送りだしたあと、午前3時半から7時半まで小屋は開店休業。
小屋スタッフは仮眠するようだ。
出発してからしばらくは階段、梯子などがある樹林帯。もっとももう背が高い木々はない。夜中の行軍としては、体を慣らす格好の時間が続く。当然、ヘッドランブなしには歩けない。そして約30分ほどたつと、真っ暗闇のなかで、山容が変わったことがわかる。そうです。いよいよ完璧な大スラブに入っていく。その最初の一歩は、ロープをつかんで岩壁を登る事から始まる。まるでカニのヨコバイのようにロープ伝いにに水平に移動したあと、こんどは直登していく。なにも目に入らぬまま、両手を使って登っていくスタイルになる。上のピークはキナバルサウス峰。エンピツの先のように尖った針峰である。この山を遠く眺めながら登るには、あと1時間後である。
3996メートルの高さにあるサヤサヤ小屋を過ぎると、もう低木さえない。甲子園のグラウンドの何倍もある広さの岩盤の緩い長い斜面を黙々と登る。まだ闇が垂れ込めたまま。この日、空にはかなり多数の星がきらめいていたが、月には大きな白い輪を広げていた。しだいに息苦しく、たびたび休んで呼吸を整える。20歩進んで2分休む。そういった遅々とした歩みになった。スラブは花崗岩で、フリクションは非常によいので、転がり落ちるというようなことは、考えられない。しかし、雨やガスに包まれると、この広大な岩盤は、やはり迷いやすく、アクシデントの元になろだろう。そのために白いロープがコース上にずっと結ばれている。これを外さないように歩くのだ。
大岩盤上には、鬼の角のように3本のピークがある。キナバルサウス峰に続き、セント・ジョーンズ峰が立ちはだかってくる。これもほとんどロウズピークと肩を並べる鋭峰だ。ゴツゴツと露出した岩肌にすごみがある。このように岩の全体が浮き彫りになってくるのは、道標8・5キロメートル表示があるところからだ。最終ゴールのピーク頂上には、あと500メートルあるかなしかだ。夜が白み始めており、もうヘッドランプは消灯してよい。ロバの耳の方角の空が金色に光り、雲もまた金色になって輝いてきた。ロバの耳の北側には「醜い姉妹岩==・アグリー・シスターズ・ロック」という奇怪な名を持つ岩の盛り上がり見えている。
正面に目指すロウズピーク峰。右側は数百メートル下までえぐられたガリーがある。したがって、白ペンキで岩に道筋をつけてある。前述した白いロープとは別に注意喚起している。視界を失った場合、転落する可能性がないとはいえない。ロウズピーク峰の登り方は、向かって左側、つまりセント・ジョーンズ峰から迫り、大岩小岩をロープを掴んでゆっくり登っていく。夜は明けてしまった。まもなく6時になる。出発からまもなく3時間。いよいよ最後の登り。すでに先端に届いた人たちの姿が見える。なかには、もう下山にかかっている人たちもいる。前後に台湾からの若い女性たちがいた。、早口のフランス語、英語、分別不可能な外国語、いろんな言葉が入り交じる。ここは国際的な人気の山であることを物語っている。


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