(奈良・高天彦神社→山頂 約4キロ 約90分)


奈良側からの一番の近道
         
 
大阪側からなら、マイカーの場合、水越峠を抜けて名柄から五条の方へ通じる山麓線を走る。高鴨神社への分岐を山麓線のままに行き途中の小さなT字路を右へ。高天彦神社を目指す。行き止まりが広場になっていて、ここが無料の駐車場。天孫降臨伝説を持つこの神社から山中に入る道が郵便道。戦前、山頂の神社、寺への郵便配達用に利用された道が由縁。近いけれど急傾斜である。                         

写真3枚は駐車場からの風景。上は古代、このあたりに住んでいた毒蜘蛛を退治したという史跡がある。葛の蔓で一網打尽にしたから、葛城の地名が起こったとも言われる。田んぼの畦を
伝って行ける。こんもりとした丘だが、取り立てて見るべきものはない。
上のは駐車場に接している鶯宿梅と名づけられた老梅。看板に次のような説明がある。7世紀、ここの高天寺住職であった鑑真が弟子を失い悲嘆に暮れていたら、鶯がやってきて梅の木に止まり、「初春の朝ごとに来れども、あわでぞ帰る元に住かに」と詠ったという。いまも、その梅の木がこれであるという。
高天彦神社に向かうと、実に目を見張るような
杉並木がある。距離にして数十メートルにすぎないが、背丈の高い、幹頑丈な老杉。往時はもっと長い並木であったかも知れず、かつて天孫降臨がこの地であったという伝承をうなずけさせるようなカミさびた風景。葛城王朝というものが古代あったのではないか、と思わせる場所だ。
近年、神社の前に「神霊」と刻まれた立派なな石碑がたった。天孫降臨の伝承を説明してある。神話である。敗戦を機に無いものとされた世界であるけれど、信仰ならどのように考えようと自由である。こうした石碑を作り、献納するエネルギーが息づいていることに感心する。
神社前を左に細い舗装路を行く。すぐ左手に小川を見る。道に草が覆い被さるような狭いところを10分も進むと、高天の滝に出る。滝の前にご覧の家屋が建つ。人家とは思えぬが、行者の寓居でもない感じ。中に腰掛けがある。この建物の先に下の写真のような小さな滝がある。写真を撮った日は、たまたま男性二人が、この滝から上の沢を攻めると準備していた。
沢は小さな滝の連続、岩登りの楽しみがあると男性たちは、ピッケルを持ち腰にハーネス、それにサワ・トレッカーというフェルト靴を履いたりしていた。フェルト靴はスリップ防止に効果があるそうだ。工業高校の名がついた装備もあり、山岳部仲間らしい。元気がいい冒険組を横目に下の丸太橋を渡って、郵便道に入る。緩やかな石の多い山道が開けている。
丸太橋は、この地を愛するボランティアの労作と聞いたことがある。山道には、こうした奇特な世話好きが往々にして存在して、同好の士の影の力になっている。土砂崩れを直したり、はしごを掛けたり、ロープを張り巡らしたり。安全を図り、事故を防ぐために親身の御仁がいる。まさに陰徳というべし。お陰様で、安心して山中に入れる
というもの。
細かい石を踏んで、静かな植林のなかを行く。雨が降れば、水流ともなる溝状の道が二手に分かれるところが、二度ほどあるが、先々では合流しているので、どちらを歩いてもかまわない。右の老朽化した機械は木材搬出に使われた物だろう。ロープ巻き取り装置のような感じ。人工物のない山中では、なにかしら目立つ放置物?
道はおおむね右と下の写真のように人手が入った丸太階段道か、よく踏みなれた道。とくに危険なところがないし、きつい割には山頂まで近距離なので、学校の遠足登山にこの道は利用されている。戦前、皇国史観華やかりし頃、山頂は登拝者で賑わい、宿泊者の大勢いたらしい。葛木神社、転法輪寺への通信業務もひんぱんなものであったらしく、郵便配達夫は、一人、この道を駆け上り、駆け下ったに違いない。
先代の葛木神社宮司は、往時の賑わいを懐かしそうに話していたものだ。敗戦とともに皇国史観は弊履の如く捨て去られ、山頂はすっかり人影が絶えた。この山をハイキング、健康登山、森林浴の山に変貌させたのは、先代宮司の機を見るに敏な時代感覚といってよい。登山回数券の捺印発行というアイデアは
金剛山の衰退を救った。
郵便道は、名の実体を失ったがけれど、奈良側から一番早い登山道として知られている、いま山頂への一番の近道は、大阪・千早赤坂村の村営ロープウエイであることは言うまでもない。この結果、金剛山登山大阪側の方が活気づき、山頂は行政上、奈良県御所市であるにもかかわらず、金剛山は大阪の山と大方の人に信じられるようになった。
ちなみに大阪の最高峰は大和葛城山(960m)。山頂が奈良県御所市と大阪府南河内郡河南町とで分け合っている。奈良の最高峰は、八経ガ岳(1915m・近畿のトップも)である。郵便道は崩れかかった山肌を一度だけすりぬけるが、その後は黙々と階段道を辿り、やがて、ダイヤモンド・トレイルの一の鳥居と水越峠を結ぶ地点に到達、ここで合流して、終わる。山頂までは、あと15分かかる。


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